ロザリーはザックにそっと耳打ちする。とはいっても身長差があるので、正確にはロザリーが見上げているのに気づいて、ザックが前かがみになって耳を寄せたのだが。
「……あの子が、嘘をついているとも思えないんです」
「だな」
「でもチェルシーさんがやったとも思えません」
言い切ったロザリーにザックは興味深げにつぶやく。
「なぜそう思う? 君はチェルシーのことを何も知らないだろう?」
ロザリーは階段の上から階下を眺めた。
たしかに、彼女自身の人柄は何も知らない。だけど、つくりの古いこの宿に入った瞬間、清浄な空気を感じた。階段の手すりも磨き上げられ、細かなところの掃除も怠っていないのがわかる。
「空気が、綺麗なんです。それってチェルシーさんが丁寧にお掃除されているからですよね。それに、この宿は温かみがあります。入口の花壇にあったお花が、そこかしこに飾られています。おそらくあれもチェルシーさんが飾っているんですよね? ……お仕事に、プライドを持っている人だとお見受けします。そういう方が、盗みを働くことはないと思います」
「へぇ」
「お姉ちゃん! この部屋だよ!」
「あ、はーい」
ボビー少年がに呼ばれて駆け出したロザリーは、後ろにいるザックが、穏やかな微笑みを浮かべていることに気づかなかった。



