アイザックも、それまで暮らしてきた伯爵家とは全く違う第二王子としての堅苦しい生活に、戸惑いを隠せなかった。まして、臣下でさえも母親の身分の低さを理由にアイザックを軽んずるのだから。
『イートン伯爵の領地に帰りたい』
アイザックが何度そういっても、カイラは頷かなかった。いや、頷けなかったのである。
すっかりふさぎ込んだアイザックだったが、七歳になると王都にある学校に通うようになり、そこでケネスと再会する。
再び友とまみえて、アイザックはもともとあった快活さを取り戻していった。グラマースクールに入ってからも、学問でも剣術でも好成績を収め、自分の力で周囲を黙らせていく。一方で、アイザックは自分の立場を理解してもいた。
兄弟である第一王子と第三王子との仲は良くなかったが、公式な場では必ず彼らを立て、自分は影に徹することでいさかいを避けていたのだ。
そうしてアイザックが孤独から解き放たれるのと反比例するように、カイラはどんどん孤独を深めていった。
唯一の心のよりどころであった息子は、自分の力で羽ばたこうとしている。
やがて心を患い、夢遊病になった彼女は夜な夜な徘徊するようになる。
王からの寵愛は薄れ、だが戻る場所もない。王も徐々に彼女の扱いに困るようになり、今や幽閉に近しい状態になっている。



