家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました


「わかりました。ザック様の正体はレイモンドさんにも誰にも言いません」

「まあ、俺の事情はいいだろう。別に何も変わらないよ。王子であることを隠し、伯爵家の遠縁のザック=バーンズを名乗っている。……あながち嘘でもないんだ。俺とケネスは同じ乳母に育てられたんだから。俺が生まれたころ、母親はここに避難していたからな」

「避難……ですか?」

「君は知らないかな? 母は側室だ。他国の血が混じっている城仕えの侍女で、正妃にしてみれば憎らしい以外の相手ではなかっただろう」

「白檀の……採れる国ですか?」

「ああ、そうだ」

穏やかにザックがほほ笑む。
あの時ザックは香木を大事なものだと言っていた。おそらく母親から託されたものなのだろう。

王国の歴史は家庭教師から学んだ。多くの国が乱立し小競り合いが続いていたこの一帯の土地は、武力で力をつけた始祖が戦争で周辺国を取り込み、モーリア国として建国した。現王が八代目の国王になる。三代目の時代に直系男子が生まれずに跡目争いが起こったことから、王族に限り一夫多妻制が導入された。それ以来、直系男子長子が継ぐことで、国内は平和が保たれていたはずだ。

賢王が続き、人々は考えることを止めた。
王家に任せておけば、すべてはうまく回っていくのだから問題ないのだ。
だから一応勉強として習ったが、ロザリーも王家のことには詳しくない。
辺境の男爵令嬢など、社交会デビューのときに国王に形式上の挨拶をするくらいで、それ以後は王族にお目にかかることもないのだから。

……と思っていたのに、ロザリーは知らないうちに、第二王子と出会ってしまったというわけだ。