家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました


「……俺の正体を知って、君が変わらないといいんだが」

「え?」

「いや、何でもないよ」

馬が更にスピードを上げたので、聞き取れなかった言葉を追求することができなかった。さすがにロザリーも楽しいばかりではなくなってきて、体を縮こまていると、お腹のあたりにザックの腕が回される。

「絶対落とさないから心配するな」

「……はい」

速さへの恐怖の代わりに、密着したドキドキが全身を支配する。

(白檀の香り……条件反射でドキドキしちゃいます)

馬はあっという間に丘を駆け上がり、ロザリーたちを白壁の豪邸へと連れてきた。
その時間は十分もかかっていない。歩みを緩めた馬が門に近づいただけで、門番が頭を下げ、道を開ける。

「ザック様、おかえりなさいませ」

「また出るから、近くにつないでおいてくれ」

先に自分が下り、ロザリーの腰を掴んで下ろす。そして、黒服の護衛たちに馬を引き渡した。

ケネスの屋敷はロザリーが暮らしていた男爵邸よりも格段に大きかった。
まず門から玄関までが長いのだ。きっと昼間に訪れれば目を奪われるような庭園が広がっているのだろう。

「やあ、よく来たね。ロザリー嬢」

玄関先で迎えてくれるのはケネスだ。使用人たちは敢えて下がらせているらしい。上着を脱いでいて、シャツとベストというラフなスタイルだ。