家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました


「そこで一緒になっただけだ。レイモンド、ロザリーを借りるぞ」

「ああ……そういうことか。……ちゃんと深夜になる前に送り届けてくださいよ」

レイモンドは納得したように言い、にやりと笑って見せる。

「分かっている」

ザックはロザリーを街の入り口まで連れてきた。そこには、一頭の馬が繋がれている。

「馬ですか?」

「乗って来たんだ。ロザリー、乗馬の経験は?」

「あ、ありません。馬車しか……」

「では俺にしっかり捕まるといい。大丈夫だよ。こいつは気性の穏やかな馬だから」

ザックはロザリーの腰を掴むとひょいと馬の背まで持ち上げた。
すぐそばに馬の匂いを感じ、生暖かい体温が伝わってくる。鞍に横座りになった状態だ。

いぶかし気に振り向く馬をなだめるようにザックが撫でた。

「しっかりつかまってろよ。少し揺れるぞ」

「え?」


ザックは鐙に足をかけ、ひらりと馬に飛び乗る。振動とともに、ザックから香る白檀がロザリーを包む。

「ど、どこに行くんですか?」

「ケネスの屋敷だ」

「えっ?」

屋敷とは、あの丘の上に見えるお屋敷のことか。
距離はそう遠くはないが、歩いたら三十分くらいはかかるだろう。

「って……ひゃあっ」

ザックが馬の尻を叩くと、馬は調子よく走り出す。風が自分の体を吹き抜けていく。初めての感覚にロザリーは興奮した。

「うわあっ。すごいです、ザックさん。早い。それに高い」

「怖くはないか?」

「怖く……無いです。ザックさんがいますし」

落ちそうになっても絶対にザックが助けてくれる。
ロザリーはそこまでの信頼を彼に感じている自分に驚いた。
初めて乗る馬の上でも、こんなに安心できるくらいに、彼を信じている。