家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました


「チェルシーさん、格好いいです」

うまい励ましも、慰めもロザリーには思いつかない。
ただ、潔くそう言えるチェルシーがとても素敵に思えて、ただそれだけを言った。

ひとしきり泣いたチェルシーは、ロザリーから体を離して小さく笑った。

「あなたは優しいわね。……もらい泣きしてくれたの?」

「え?」

自分が泣いているなんて、思っていなかった。
言われて目もとに触れ、濡れているのに気づく。

「それより、チェルシーさん辞めませんよね? 私、嫌です。チェルシーさんに会えなくなるのは」

「もちろんよ。この宿は私がいなきゃなりたたないでしょ? ……でも、長年の恋が死んだんだもの。しばらくは落ち込ませて。いつか元気になる。時間が解決してくれるわ。」

「チェルシーさん」

「早く中にはいるのよ、ロザリー」

そんな言葉を投げかけ、チェルシーは帰路に着いた。
ロザリーは彼女の背中が暗闇に消えていくのを見つめながら、死という単語を思い起こした。

どんな物事にも、生と死はあるのかもしれない。
人の死だけじゃない。モノや心、すべてのものに……。
そう思えば、チェルシーの悲しみに同調して泣けてしまったロザリーの感情は決して死んではいない。
ロザリーはなんとなくホッとした。

「おい、ロザリー、いつまで外にいるつもりだ。風邪ひくぞ」

レイモンドの声だ。ロザリーは気を取り直して宿の中に入る。食堂のテーブルに座るレイモンドの向かいには、もう一人分のお茶が入れられていた。