「……毎日傍にいて、彼の仕事のやり方もよく知ってる。私はこの宿にとって失うことのできない人材にはなれた。……けど、レイモンドにとってのただ一人にはなれなかったんだわ。仕方ないわね、気持ちを変えられなかった私の負けよ」
「チェルシーさん」
潔いことを言っているが、チェルシーの瞳には涙が浮かぶ。だけど、チェルシーが同情を求めていないことはロザリーにもわかる。心配そうに見上げるロザリーのおでこに、彼女は自分のおでこをこつんと当てた。
「大丈夫よ。でもちょっとだけ泣かせて。……望みがないってわかっていたのに、私はこの恋を忘れられなかった」
ロザリーは手を伸ばしてチェルシーを抱きしめた。
しっかり者のチェルシーが肩を震わせているのが、まるで自分のことのように辛い。
「……好きだったの。レイモンドが。脈もないし、告白する勇気すら持てなかったのに、バカよね」
小さな滴が、ロザリーの肩を濡らす。切なさで胸が痛くなる。ロザリーに尻尾があったなら、きっとぺたんと下を向いてしまっているだろう。
恋は嬉しくて甘くて、好きな人を見てるだけで幸せな気持ちになれる。
その反面、痛みも、苦みもはらんでいる。恋が破れればこんなに苦しくて、辛い。
「でも、好きになったこと、後悔なんていていないわ」
絞り出したようなチェルシーのひと言が、ロザリーの胸にすとんと落ちた。



