「最近、親父さんいないだろ? ってことはレイモンドが跡を継いだのかなって思って。そこにオードリーが戻って来たから、てっきりレイモンドがオードリーを口説き落としたのかと思ったんだよ。……もしそうなら、これまでの宿主と同じように指輪を渡しただろうし。オードリーの娘が指輪もってたからこれが件の指輪か?って思って」

ほんの出来心だ、とニールは言った。
金庫の鍵番号がわかれば、深夜に忍び込み、ちょっとだけお金をちょろまかすこともできるだろう、と。

そう思い、ニールはクリスの背中を押して転ばせた。
しっかり指輪を持ったままだったクリスは、手の痛みに指輪を離し泣きだした。それを横目に、ニールは指輪をすっと奪い、そそくさと立ち去った。

しかし指輪をよくみても、数字などどこにも見当たらない。光を当ててみたりもしたが、特に何も新しいものは見えてこなかった。

すべて自分の勘違いだったか、と思ったニールは、次に質屋で指輪を換金しようとした。が、琥珀の質がそこまでよくないと値段を下げられた。
どうしようか迷っていた時に、泣きながら走るチェルシーを追うランディを見つけたのだ。

ランディがチェルシーに片思いしているのもまた、同年代の中では酒の肴として知られていた。
見た目はいかついが中身はおとなしいランディは、仲間内でも立場が弱い。脈はなさそうなのに、いつまでもあきらめきれないのは女々しいと馬鹿にされてもいた。

ランディを甘く見ているのはニールも一緒で、とっさに、これを売りつけてしまおうと思ったのだ。