グラマースクールに通うのは男子ばかりだ。研究生とはいえ女性がいることには違和感しかなく、結果オードリーは図書館にばかりいるようになる。
加えて学費の問題もある。イートン伯爵家が半額支援してくれてはいたが、庶民のオードリーの家には半額でも厳しい。司書の手伝いをしてもらえるわずかな賃金も通学のための乗合馬車代で消えていく。

息苦しさにオードリーが退学も考えたとき、彼女を救ったのがオルコットだ。
オードリーより十歳上の彼は、若くして助教授職についていて、図書館で熱心に勉強をする彼女に目をかけていた。
自らの助手として雇い入れ、学費だけでなく学術本、衣服など生活全般にわたり彼女を支援し続けた。

そして彼女が二十歳になったとき、彼には王都に教授として招かれることとなった。

『君には、これからも私の研究を支えてほしい。どうか妻になって、一緒に来てほしい』

既に援助してもらっている金額は計り知れない。学内でも噂も立ち、ふたりの結婚はあたり前だろうという空気が流れていた。
オードリーには頷く以外の選択肢はなかったが、少しばかり反抗したくて、返事は一時保留とした。

オードリーは悔しかったのだ。オルコットが自分のことを“助手”としか思っていなかったことが。
才能を認めてくれていると思っていた。オードリー自身は共同研究者のつもりだったのに。