「そうだな。格好いい手になった」

その笑顔が、労わるような優しいものだったから、ロザリーの胸は再び大きく跳ねた。

(もっと見ていたい。もっと一緒にいたいです。ずるいです。ザック様の優しい顔は癖になります)

恥じらいながら胸元に手を戻し、そういえばクリスの手にも擦り傷があったことを思い出した。
最初に泣きながら切り株亭にやって来たときに、あまりの痛々しさに目を奪われたのだ。

「……手。……そういえば、クリスさん、この擦り傷はいつつけたんですか?」

もう一度確認する。指輪を握り込んでいたからか、手のひらの母指球の部分と指を折り曲げた第一関節のあたりがひどくこすれている。

人は転ぶとき、とっさに手をついて身をかばうものだ。
だからロザリーはクリスが転ぶ前に指輪を離してしまったのだと思った。
けれど、この怪我の具合を見るとクリスは指輪を握ったままだったはずだ。仮に手からすっぽ抜けてしまったとしても、そこまで遠くにはいかないだろう。

「……ごめんなさい。転んだ時の状況をもう一度教えてもらっていいですか? 石畳につまづいて転んだんですか?」

クリスはよく転んでいた。だからてっきり、つまづいて転んだものだと思い込んでいた。
だがこれはもしかすると……。