「お姉ちゃんが探してきてあげます。ザック様、申し訳ないんですがクリスさんをお願いします」

「クリスも行く!」

「俺も行くよ。宿屋の近くって言ったって広いんだぞ? いくら鼻が良くても、君ひとりじゃ無理だ」

ザックはクリスをひょいと抱き上げ、ロザリーの手を引いて歩き出す。
今度はクリスも嫌がらず、むしろ積極的に場所の説明をし始めた。

切り株亭が見える道路。その範囲は思いのほか広かった。
中央広場から三叉路に分かれてからは、木の根のように奥に行くほど道が細くなっていく。三叉路の真ん中の通りは商店が多い通りで、道幅も一番広い。宿屋の前も十分に広く、どちらに転がったかわからないから余計探す範囲は広い。

探し始めて三十分。石畳の隙間をチェックしているので、ロザリーの爪は引っかかって欠けてきていた。

「見つからないな」

「そうですね。すみません、ザック様。クリスさんを抱きながらでは重いですよね」

「いや、俺は平気だが……」

そういうと、ザックはロザリーの手をひょいと持ち上げ、欠けた爪に唇を当てる。

「え、……あ、ちょ」

一気に真っ赤になるロザリーに対し、ザックは余裕の笑みだ。

「綺麗だった手がすっかり傷だらけだ」

「あ、あは。これでお仕事を知ってる手になりましたかね」

かつての嫌味をすんなりと流すロザリーに、ザックは笑うしかない。