『お前の望みは、私の望みでもある。ひと晩かけて、お前のことを私に、教えてくれ……』
『彼の御方は、すでに“役割”を終え、現世には居られません』
『あんたさぁ、ハクとの間に子供ほしい?』
『これから、わたくしと共に“商人司”の屋敷に行き、“神力”を顕していただきたいのです』
『さぁさぁ、サクヤ姫様。その“神力”でもって、これを生き返らせていただけますかな?』
『──俺のために、旦那を呼んでくれ』
『お前にとって私が神という存在で、そのことによって私を呼ぶのをためらうというのなら、私は神でなど、いたくない』
『ふむ、我には道理が解らぬのだが。再生も治癒も、自然の摂理に反した行いであろうに』
『私は以前、綾乃様……ハク様の親神様に、お仕えしておりました』
『綾乃は、再生を許さないと言われる剣に、魂魄を切り離されてしまったのだ』
『どうぞ、召し上がってくださいませ。多少なりとも、姫さまのお力になるはずです』
『ハ、ハク様、早く元のお姿に、お戻りになられると良いですね』
『不可解で無駄な言動が多く、私を悩ませるのがお前という存在だ。
だが、だからこそ私は、お前自身をこれほどにも乞うのだろう』
『尊臣公はそれを、禍つびの神獣──ハクの仕業と結論づけおった』
『わたくしに、手荒な真似をさせないでいただきたい』
『そなたの心にも、いつかは桜咲く日が訪れよう。案ずるな。今はまだ、その時ではないだけだ』
『不当な手段で奪われた我が“主”を、返していただく』
『無駄だ。“神逐らいの剣”が断ち切るのは、魂魄なんだからな』
『師には感謝しかない。こうして、お前と出逢わせてくれた』
『そなたは本来、喚ばれるべき者ではなかったのだ、咲耶』
『咲耶殿。その気持ちを伝えるべき相手は、この世界には居りませんよ』
『そして汝は、かの者の記憶とそれに付する一切の記憶を手放し、この“陽ノ元” を去ることとなる』
『咲耶──』
幾度も呼ばれ、ささやかれた声音。
肌に触れる指先と吐息。
青みを帯びた黒い瞳が映すのは──彼を想う自分。
※
『彼の御方は、すでに“役割”を終え、現世には居られません』
『あんたさぁ、ハクとの間に子供ほしい?』
『これから、わたくしと共に“商人司”の屋敷に行き、“神力”を顕していただきたいのです』
『さぁさぁ、サクヤ姫様。その“神力”でもって、これを生き返らせていただけますかな?』
『──俺のために、旦那を呼んでくれ』
『お前にとって私が神という存在で、そのことによって私を呼ぶのをためらうというのなら、私は神でなど、いたくない』
『ふむ、我には道理が解らぬのだが。再生も治癒も、自然の摂理に反した行いであろうに』
『私は以前、綾乃様……ハク様の親神様に、お仕えしておりました』
『綾乃は、再生を許さないと言われる剣に、魂魄を切り離されてしまったのだ』
『どうぞ、召し上がってくださいませ。多少なりとも、姫さまのお力になるはずです』
『ハ、ハク様、早く元のお姿に、お戻りになられると良いですね』
『不可解で無駄な言動が多く、私を悩ませるのがお前という存在だ。
だが、だからこそ私は、お前自身をこれほどにも乞うのだろう』
『尊臣公はそれを、禍つびの神獣──ハクの仕業と結論づけおった』
『わたくしに、手荒な真似をさせないでいただきたい』
『そなたの心にも、いつかは桜咲く日が訪れよう。案ずるな。今はまだ、その時ではないだけだ』
『不当な手段で奪われた我が“主”を、返していただく』
『無駄だ。“神逐らいの剣”が断ち切るのは、魂魄なんだからな』
『師には感謝しかない。こうして、お前と出逢わせてくれた』
『そなたは本来、喚ばれるべき者ではなかったのだ、咲耶』
『咲耶殿。その気持ちを伝えるべき相手は、この世界には居りませんよ』
『そして汝は、かの者の記憶とそれに付する一切の記憶を手放し、この“陽ノ元” を去ることとなる』
『咲耶──』
幾度も呼ばれ、ささやかれた声音。
肌に触れる指先と吐息。
青みを帯びた黒い瞳が映すのは──彼を想う自分。
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