『お前の望みは、私の望みでもある。ひと晩かけて、お前のことを私に、教えてくれ……』

()の御方は、すでに“役割”を終え、現世には居られません』

『あんたさぁ、ハクとの間に子供ほしい?』

『これから、わたくしと共に“商人司”の屋敷に行き、“神力”を(あらわ)していただきたいのです』

『さぁさぁ、サクヤ姫様。その“神力”でもって、これを生き返らせていただけますかな?』

『──俺のために、旦那を呼んでくれ』

『お前にとって私が神という存在で、そのことによって私を呼ぶのをためらうというのなら、私は神でなど、いたくない』

『ふむ、我には道理が解らぬのだが。再生も治癒も、自然の摂理に反した行いであろうに』

『私は以前、綾乃様……ハク様の親神様に、お仕えしておりました』

『綾乃は、再生を許さないと言われる剣に、魂魄(こんぱく)を切り離されてしまったのだ』

『どうぞ、召し上がってくださいませ。多少なりとも、姫さまのお力になるはずです』

『ハ、ハク様、早く元のお姿に、お戻りになられると良いですね』

『不可解で無駄な言動が多く、私を悩ませるのがお前という存在だ。
だが、だからこそ私は、お前自身をこれほどにも乞うのだろう』

『尊臣公はそれを、(まが)つびの神獣(かみ)──ハクの仕業と結論づけおった』

『わたくしに、手荒な真似をさせないでいただきたい』

『そなたの心にも、いつかは桜咲く日が訪れよう。案ずるな。今はまだ、その時ではないだけだ』

『不当な手段で奪われた我が“主”を、返していただく』

『無駄だ。“神逐(かむや)らいの(つるぎ)”が断ち切るのは、魂魄なんだからな』

『師には感謝しかない。こうして、お前と出逢わせてくれた』

『そなたは本来、喚ばれるべき者ではなかったのだ、咲耶』

『咲耶殿。その気持ちを伝えるべき相手は、この世界には居りませんよ』

『そして(なんじ)は、かの者の記憶とそれに付する一切の記憶を手放し、この“陽ノ元” を去ることとなる』





『咲耶──』

幾度も呼ばれ、ささやかれた声音。
肌に触れる指先と吐息。
青みを帯びた黒い瞳が映すのは──彼を想う自分。


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