なめられて、唇が押しあてられ、吸われる。しびれるような感覚が、左脚を中心に広がっていく。
断続的に襲った激痛が、少しずつ小さな痛みに変化していくのが分かった。

和彰の吐息を素肌に感じる頃には、咲耶の左太ももにあった醜い水疱は、跡形もなくなっていた。

「……気分は、どうだ」

痛みとは違う身体のうずきを感じた直後、咲耶は我に返って身を起こす。
あわてて、乱れた着物をかき寄せた。心臓がばくばくと音を立て、頬が熱く、耳までも熱い。

「どどどどど、どうって……!」
「顔が赤い。他にも何か、お前の身体に害を及ぼしたものがあるのか」

軽く眉を寄せ、先ほどは触れなかった咲耶の右半身に、和彰が目を向け左手を伸ばす。

(男に身体さわられたあげく、内ももにチューされて、何も感じない女がいるかっ!)

「そっ、そういうことじゃないでしょっ! なんで和彰ってば、そんなに冷静でいられるのよっ!?」

自分ひとり、何やら反応してしまった身体に、恥ずかしさのあまり叫ぶ咲耶に対し、和彰の眉がさらに寄せられた。

「私のどこが、冷静でいたというのだ?」
「は?」
「お前が倒れたと聞き、師の言い付けを破り、お前のもとへ人の姿のまま駆けつけた(・・・・・)
意識のないお前を抱き上げ、この屋敷に運んできた(・・・・・)
──“人ならざる力”を、公然と使ってしまったのだ」

強い語調で話す和彰は、確かに『冷静』でいるようには見えなかった。
毒気をぬかれ、ただ見返すことしかできない咲耶を、和彰の真剣な眼差しがつらぬく。

「師に戒められた力を使ったことに、後悔はない。私は、私の為すべきことをしたまでだからだ。
だが」

言い切った和彰の腕が、咲耶の身体をさらう。自分に引き寄せて、咲耶を閉じ込めるように力をこめてきた。

「お前に残した言の葉が、的確でなかったことを悔いている。
……お前の身が危うくなった時などと言わず、いつでも呼べと、なぜ、言わなかったのかと」

かすれた声音が、己を責める和彰の苦い思いを表していた。

咲耶は、息苦しいほどにつつみこまれた自らが、どれほど和彰のなかで大切に扱われているかを知り、胸がいっぱいになる。