「“国司”尊臣様からの使者どのが、姫さまに目通りを願われていますが、いかがなさいますか?」
「………………え?」
椿の言葉に、咲耶は顔をしかめた。
先ほど玄関の方角から人の話し声はしていたが、まさか来客だったとは。
てっきり“眷属”たちの誰かと、椿が話しているのだろうと思い、気にもしなかったのだ。
しかも相手は茜いわく「尊臣っていう『面倒ごと』」の使者だという。
咲耶は一瞬、仮病を使うことも考えたが、“花嫁”は“神籍”にある以上、なかなか病気になりにくい。
すぐに嘘と分かる口実は、使わないほうがいいだろうと思い、考えを改めた。
「用件は何か、訊いてる?」
「いいえ。姫さまに、まずは目通り叶えばと、それだけにございます。
あいにく、わたしのような身分の者が、“国司”様の使者どのに深く尋ねるのは、失礼にあたるかと……」
申し訳なさそうな椿の様子に、咲耶は心を決める。
しっかりしているとはいえ、年端もいかない少女に、“国司”の遣いと渡り合えというのは酷だ。
客間で待つという使者に会うため、咲耶は重い腰を上げた。
「お初にお目にかかれて、光栄にございます、白の姫君。
私は、尊臣様の乳兄弟で側仕えをしております、虎次郎と申します」
柔和な笑みで咲耶を見て軽く会釈したのは、年の頃は二十代後半くらいの男だった。
漆黒の長い髪を高い位置で結び、あまり派手ではないが、仕立ての良さそうな直垂姿をしている。
「えっと、あの……見ての通り、かなり歳くってますので、姫って柄じゃないですけど……。
──松元、咲耶と申します」
居心地の悪さに、本音が先に口をついて出てしまう。
そんな咲耶に、虎次郎と名乗った男が小さく笑った。
「いえ、噂で聞くよりも、ずっと愛らしい面立ちで、けれども、芯のある女性とお見受けいたします。
姫君と、呼んで差し支えないかと」
(──ヤバイ。寒い……)
こちらの季節は、確かに冬を思わせる肌寒さになっていたが。
表情から察するに悪気はなく、社交辞令だとは解るが、咲耶にとってはいたたまれない修飾語であった。
「………………え?」
椿の言葉に、咲耶は顔をしかめた。
先ほど玄関の方角から人の話し声はしていたが、まさか来客だったとは。
てっきり“眷属”たちの誰かと、椿が話しているのだろうと思い、気にもしなかったのだ。
しかも相手は茜いわく「尊臣っていう『面倒ごと』」の使者だという。
咲耶は一瞬、仮病を使うことも考えたが、“花嫁”は“神籍”にある以上、なかなか病気になりにくい。
すぐに嘘と分かる口実は、使わないほうがいいだろうと思い、考えを改めた。
「用件は何か、訊いてる?」
「いいえ。姫さまに、まずは目通り叶えばと、それだけにございます。
あいにく、わたしのような身分の者が、“国司”様の使者どのに深く尋ねるのは、失礼にあたるかと……」
申し訳なさそうな椿の様子に、咲耶は心を決める。
しっかりしているとはいえ、年端もいかない少女に、“国司”の遣いと渡り合えというのは酷だ。
客間で待つという使者に会うため、咲耶は重い腰を上げた。
「お初にお目にかかれて、光栄にございます、白の姫君。
私は、尊臣様の乳兄弟で側仕えをしております、虎次郎と申します」
柔和な笑みで咲耶を見て軽く会釈したのは、年の頃は二十代後半くらいの男だった。
漆黒の長い髪を高い位置で結び、あまり派手ではないが、仕立ての良さそうな直垂姿をしている。
「えっと、あの……見ての通り、かなり歳くってますので、姫って柄じゃないですけど……。
──松元、咲耶と申します」
居心地の悪さに、本音が先に口をついて出てしまう。
そんな咲耶に、虎次郎と名乗った男が小さく笑った。
「いえ、噂で聞くよりも、ずっと愛らしい面立ちで、けれども、芯のある女性とお見受けいたします。
姫君と、呼んで差し支えないかと」
(──ヤバイ。寒い……)
こちらの季節は、確かに冬を思わせる肌寒さになっていたが。
表情から察するに悪気はなく、社交辞令だとは解るが、咲耶にとってはいたたまれない修飾語であった。



