4.

支配人室に戻ると、そこには慧一の他に留加もいて、未優は恥ずかしさのあまり、扉の前に立ち尽くしてしまう。

自分が“歌姫”になるために、見ず知らずの男に身を任せようとしてた事実を、当の薫はもちろん、慧一にも留加にも知られていたのだ。

「何、突っ立ってんだい。座んな、話があんだからさ」
「未優」

薫に背を押され、ソファーへと座らせられる。
慧一は未優の隣に座り、薫は響子の隣に腰かけたが、留加だけは変わらず部屋の入り口付近に立っていた。

「──お嬢ちゃん、あんたの覚悟は解ったよ。と、いうより、馬鹿さかげんが、といった方が正しいかもしれないけどね。試すような真似して、悪かったね」

苦笑いを浮かべる響子の真意を探ろうと、未優はじっと見つめ返した。

「ハッキリ言うよ。あんたは、まともなやり方じゃ、“歌姫”にはなれないんだ。“劇場”が政府の権力下にあることを考えれば当然の話でね。

たいていの規制はないのが“歌姫”だが、一応、
「“純血種”を雇ってはならない」
っていうお達しだけはいただいてんのさ。
“歌姫”が娼婦である以上、貴重な血筋の人間を、(けが)すわけにはいかないからね」