3.

暗い客席の中、慧一はさきほど見た未優の“舞台”を思いだしていた。

(あいつは昔から、「自分」を表現するのがうまかったな)

自分とは正反対の、真っすぐな自己表現。
それが憎らしくて、どうにかして泣かせてやろうと、いつも意地悪な物言いを繰り返してきた。

いつかその心に醜い感情を宿らせて、ひた隠しに表面をつくろう様を、見てみたかった。
しかし、(いま)だにその野望は成し得ていない。

(恋をすれば、あるいは)

そう考えて、苦笑いする。その相手になり得る者は、いつも異“種族”で。
未優の遺伝子には、恋愛に関して間違ったプログラムがなされているとしか、思えなかった。

同“種族”間の婚姻が常識とされる世で、当たり前のように引き合わされた、自分と、未優。
彼女が十三歳、慧一は十五歳だった。

イリオモテの系譜では、他の婚約者候補に比べ、慧一は、彼女から最も遠い血筋だった。
「血の繋がりが遠いほど良縁」とされる“純血種”同士の結婚相手としては、最適と目されていたのもうなずける。

(結婚か)

イリオモテの次期当主は未優だが、彼女と結婚すれば自動的に実権は自分のものになるだろう。それは、望むところだ。
だが。

(好きでもない男と、結婚するような女か、あいつが……)