2.

両脇に幾つも並んだ鏡と丸椅子の間を抜けて行くと、一番奥まった所に一段高くなった三畳の座敷があり、未優はそこへ靴を脱いで上がった。
備え付けのカーテンを閉め、バッグから衣装を取り出す。

ノースリーブに膝丈のワンピースは、桜色をしていて、腰から下は花びらのように幾重にも布が折り重なっている。

跳躍を制限させないために、足まわりが自由のきくようにデザインされていた。
同素材のネックウェアをつけ、未優はカーテンを開ける。

ストラップ付きの水色がかった白いパンプスを履く。
この日のために何度かこの靴で踊ってみたが、やはり着地の時のバランスに、多少の不安が残った。

(落ち着いてやれば、大丈夫)

鏡の中の自分に言い聞かせて、未優は腰まである栗色の髪を、丁寧に梳いていく。
小花が付いたリボンを髪に編み込み、仕上げに色付きのリップクリームをひいた。

本来なら“舞台”映えするメイクをほどこしたかったが、慧一に、
「化け物か」
と、突っ込まれた技術ではしない方がマシだろう。

(「般若面」に化け物って言われちゃね……)

ふっ……と、未優の口元にニヒルな笑みが浮かぶ。と、その時、扉が叩かれた。

「未優。まだかかりそうか?」
「あっ、今行くから、待ってて!」

全身を映す鏡の前で最終チェックを入れて、扉を開ける。