1.

『虎族』の“支配領域”であるハニーシティに“第三劇場”はあった。

“第三”とは“劇場”が創設された順を表し、また、政府が許認可を下した際に与える屋号である。
全国に散らばった“劇場”が“第十二”まであることを考えれば歴史は古い方だろう。

現支配人は、『女王』までのぼりつめた虎坂(とらさか)響子(きょうこ)
『王女』二人、『声優』三人、『偶像』五人、『踊り子』三人の、総勢十三名の“歌姫”を抱えている。

(……“歌姫”に“地位”があるなんて、知らなかった……)

イメージトレーニングのため、ヴァイオリン曲を聴いていた未優は、手にした携帯音楽プレーヤーのスイッチを切った。
足元のガラス窓の向こうを見下ろす。

懸垂式の公共モノレールからは未優の住むマロンタウンより遙かに多い人通りが窺えた。
様々な“種族”が行き交っているのが、髪色と『姿』で分かった。

(『虎』の支配地って、獣型で歩いてもオッケーなんだよね)

“異種族間子”以外は、ほぼひと月に一度訪れる“変身”。

『獣の姿を公共の場にさらしてはならない』
とする“掟”を定めている“領域”が多いのだが、『虎』の“支配領域”では、それがなかった。