「……『山猫族』本家──猫山(ねこやま)の当主の娘で、現存するイリオモテヤマネコの未婚の(メス)、最後の一人で……一ぴき」
「“希少種”だ。
ツシマの連中を喜ばせたいのなら早めに言ってくれ。俺も身の振り方を考え直す」
「別にあたし、そういうつもりじゃ……」
「お前の気持ちが問題なんじゃない。行動が問題なんだ」

ピシャリと慧一が言い放つ。

「『山猫族』の“純血種”……しかも、本家であるイリオモテの当主の娘が、よりにもよって“血統”数だけは無用に多い最下層の『犬族』の“混血種”に、ひとめぼれしたあげく交際申しこんだなんて、世間に知られてみろ。
物笑いの種だけで済めばいいが、親父さんの政治生命に関わるスキャンダルになるだろう。
この間の『狐族』といい……お前はどうしてそう異“種族”にばかり惚れるんだ? 俺に対する嫌がらせか?」

たたみかけるように慧一に言われ、未優は自らの片耳に手を伸ばし、耳たぶに触れる。三日月型の金色の“ピアス”がそこにはあった。

彼女が『山猫族』の“純血種”であることを物語る証。慧一の耳にも、同じ物が光っている。