分厚いハードカバーのページを繰りながら、彼は事もなげに言った。

「確かに。まったくもって同感だな。お前は本当に考えなしの、正真正銘の馬鹿、だからな」
「──っ……うるっさいわね!」

抱え込んでいたクッションを投げつけると、ひょいとかわされた。

中指で眼鏡のブリッジを押し上げ未優を一瞥(いちべつ)もせず、慧一(けいいち)は何事もなかったかのように、洋書を読み続ける。
その様に、未優の頬がぴくぴくとひきつった。

「てか、なんであんた人の部屋で本なんか読んでんのよっ!?」

同じ敷地内に住んでいるとはいえ慧一の私室があるのは四つの館のうち、未優の私室がある東側に位置する「春の館」とは別館だ。

「愚問だな。お前が帰ってくるのを待っていたに決まっているだろう。
それをお前は、ご丁寧にデカイ独り言でもって、トチ狂った失恋話を聞きたくもない俺に聞かせたってわけだ。

いいか? 毎度同じことを言わせるな。尻拭いはいつも俺にまわってくるんだ。いいかげん、自分がどういう立場の人間か、わきまえろ」

パタンと本が閉じられ、そこでようやく慧一が未優を見た。眼鏡の奥の鋭い眼光が、容赦なく彼女を突き刺す。

未優はしぶしぶと口を開いた。