それは、と口を動かした女の子だけど、フッと消えていってしまった。


まだ聞きたいこともたくさんあったっていうのに、どうして……


投げた言葉の返事は返ってくることもなく、遠くから聞こえてくる追っ手達の声が聞こえる。


急に襲ってくる孤独と不安に、息が苦しくなる。


ここにいても見つかるのも時間の問題だ。


そっと伊鞠くんに顔を押し付けて鼻から息を吸い込むと、伊鞠くんの優しい匂いが肺の中に充満していく。


弱気になっちゃダメよ、伊鞠くんを連れて帰るって決めたんだから。


小さく感じる鼓動に気合いを入れて、周囲を見渡す。


ここの離れはきっと人が近寄らない場所なんだろう。


離れを囲むように生い茂る竹林の先に見える景色を見つけ、そちらに向かって歩きだす。


外へと通じていることは確かなんだから、まずはそこへ行けばいいのよ。


きっと帰れる……はず。


サクサクと足音を立てながら、ふと名前を呼ばれたような気がして振り返るけど、知っている人は誰もいない。



「お願い嘉さん……早く迎えに来て」



小さく吐いた弱音は竹林が奏でる葉の音色にもみ消されるように、消えていってしまうばかりだった。