国王様はそのまま歩き出す。

私は慌てて国王様の背を追った。


え?ちょっ……、エスコートもしてくれないの!?


ヒールであることももちろんながら、ドレスの裾も気にしなければならないから、足が長く、歩幅の広い国王様との距離はどんどんと離れていく。


たまらず私は国王様を呼び止めた。


「お、お待ち下さい!アルス様っ!!」


その声に、ピタリと国王様の動きが止まった。

そしてくるっと振り返ると、私の元へと戻ってくる。
国王様の顔は、どこかしら怖い。


遅いって怒られる!?

私は少し怯んで、身体を構えてしまう。


「……すまない。気付かなかった」


ところが国王様の口から出たのは、思ってもみない言葉。

謝られるとは思っていなかったので、つい拍子抜けしてしまった。


「い、いえ。まだ城の中を案内されておりませんから、出来ればもう少しゆっくりと歩いて頂けると、嬉しいのですが」


「――手を」


背を私に向けて、手を差し伸べる。
そっと手を置くと、優しく握ってくれた。


国王様の手は、私の手などすっぽりと消えてしまうほど大きくて、温かい。


トクン、と胸が鳴る。


ふと国王様を見上げると、厳しい表情のまま変化はないが、耳だけが真っ赤になっているのに気が付いた。


あれ?
……もしかして、照れているのかしら?



ぶっきらぼうで感情の読み取れないお人だけれど、何故か可愛いと思ってしまって、思わず少し笑みが零れてしまった。