ミネアの瞳に溜まっていた涙が、溢れて零れだす。


つつ、と頬を伝う涙を拭ってやりたくて手が伸びかけたが、昨日の出来事が脳裏をよぎり、寸でで拳を握って引っ込めた。

そして代わりに安心させるように、笑顔を作って見せる。


ミネアは唇を噛みしめ、顔を歪めた。



「アルス様っ……!」

「いいんだ。何も気にしなくていい。ミネアも昨日は眠れなかったんだろう?少し部屋に戻って休みなさい。後は全て私に任せてくれればいいから。……ロバート、ミネアを部屋まで」

「はい、かしこまりました」

「アルス様!!」


そう叫ぶミネアを、ロバートは半ば強引に連れて部屋を出ていく。


ミネアの後姿を見つめて思う。


……大丈夫だ、ミネア。

ミネアが私を嫌いになり拒絶したとしても、必ずアーネストを守る約束は果たす。


私がしてやれる事はこれくらいしか出来ないから。

これ以上ミネアが傷付く顔を見たくはないから。


私の命を賭けてでも、アーネストを守ろう。


――それが、ミネアに対する罪滅ぼしでもあるのだから……。





「……さて、話を戻そう」


気持ちを切り替え、その場にいた騎士に声を掛けた。

そしてその日から、怒涛の毎日が始まる事となったのであった。