あたしは心の中でそう言った。


実際にはゆるくため息を吐き出しただけだった。


「あの男は資産家の息子だ。金に苦労はしてない」


あたしがそう言うと、奏は目を大きく見開いた。


今にもこぼれ落ちてしまいそうだ。


「冗談でしょ?」


あたしはすぐにスマホを取り出し、パーティーの写真を奏に見せた。


「これは去年撮影した、誕生日の写真」


「これ、明……?」


スーツ姿の明さんを見た奏が更に目を大きく見開いた。


「そうだよ。明はこの後ミュージシャンになるために家を出て、親からは見離されたんだ。だけど、この頃からまだ1年も経ってない。家に戻る気があれば、戻れるはずだ」


「そんな……」


奏は考えがまとまっていないのか、視線を空中に彷徨わせ始めた。


今までお金を貢いでいた男が資産家の息子だったなんて、考えてもいなかったのだろう。


「明は自分が自由に過ごすために奏を利用してるだけなんだ。親に頭を下げて許してもらう事もできない、腰抜けだ」


あたしがそう言った時、奏のスマホが鳴り始めた。


画面を確認して焦った表情を浮かべている。


「明からか?」


そう聞くと、奏は小さく頷いた。


「俺も一緒に行く」


あたしはそう言ったのだった。