他愛もない会話なのに、聞いているこっちは驚いたり笑ったりと忙しい。


とても話上手な人だ。


やがて奏の家が見えて来た。


家には明るい電気がつけられている。


「送ってくれてありがとう」


あたしはそっと手を離してそう言った。


なんだかデート帰りみたいで照れくさい。


明さんは頷き、そして右手を差し出して来た。


手のひらを上にして「ん」と、一言言う。


「え……?」


あたしはそれがなんの意味なのかわからなくて、首を傾げた。


カップルたちが帰り際に秘密のやり取りをするような、あんなやつかもしれない。


「『え?』じゃないよ、今日の分」


明さんはあたしがとぼけているのだと思ったのか、明るく笑ってそう言った。


だけど、あたしには本当にわからない。


怪しまれても、素直に訊ねるしかできなかった。