あたしはジッとその光景を見つめている。


司が火のついたタバコを持ったままミカちゃんに近づいた。


ミカちゃんは怯えた表情を司へ向ける。


その時、ジャリッと音がして全員が同時に振り向いた。


みんなの視線に気が付いてハッと息を飲み、立ち止まったのはクラスメートの山口夏斗(ヤマグチ ナツト)だ。


夏斗が現れた瞬間、ミカちゃんの口が微かに動いた。


だけど『助けて』という声にはならなかった。


「よぉ、夏斗」


司が軽く挨拶をした直後、タバコがミカちゃんの手の甲に押し付けられていた。


ミカちゃんが短く悲鳴を上げる。


ジリッと肌が焼けるような音が聞こえてきた気がした。


夏斗がその光景を呆然として見つめている。


「なんだよ夏斗。今日は止めないんだな」


司がヘラッと笑顔を向けてそう言った。


夏斗はそんな司に一瞬だけ視線を送ると、逃げるようにその場を後にしたのだった。