一枚を手に取り、マスクの紐を耳にかける。


顔を覆われる感覚に、痺れがくるほどの心地よさと安心を感じた。


鏡に向き直る。

マスクをつけた顔を見ると、『ああ、これが私の顔だ』という実感が沸き上がってきた。


素顔を見るよりも、マスクをつけた顔を見たときのほうがずっとしっくりくる。

むしろ最近は、自分の素顔に居心地の悪さを感じるようになってきた。


マスクに鼻まですっぽり覆われて、私の顔の中で姿を現しているパーツは目だけだ。

前髪が重たくて長めなので、眉毛すら見えない。


さっき見た自分の顔を思い出す。

高さの足りない鼻、厚みと形のバランスが悪い唇、丸みを帯びた顎。

嫌いな部分ばかりだ。


目だって奥二重で、せめてもう少し大きければいいのにと今まで何度も思った。


でも、不思議なことに、マスクをつけていると、華やかさのかけらもないはずの自分の目が、少しきれいに見える気がする。

他の醜い部分は隠されているし、マスクをつけているときの自分の顔は、そこまで絶望的に悪いわけではないな、と少しだけ気分が良くなるのだ。


私はマスクをつけたままで机に座り、勉強を再開した。

自分でも何をしているんだろう、と呆れたけれど、外そうとは思わなかった。