「ただいま」


玄関のドアを開けながら、廊下の奥に声をかける。

リビングから「おかえり」と声が聞こえてきた。


玄関のすぐ右に私の部屋がある。

荷物を置いて、私はいつものようにそのままの足でリビングに顔を出した。


「茜、お帰り。遅かったね」


台所に立っていたお母さんがそう声をかけてきた。


「うん、文化祭のことでちょっと」

「そう。ごめん、こっち頼んでいい?」

「はあい」


流し台の前のお母さんと入れ替わる。

お母さんは今から、保育園に妹を迎えに行くのだ。


「お母さん、これ、サラダでいいの?」

「うん、よろしくね。行ってきます」

「行ってらっしゃい、気をつけて」


野菜をさっと洗い、皿に盛り付けてラップをかけて冷蔵庫にしまう。


横に視線をすべらせると、調理台に食材が並んでいた。

合挽き肉に玉ねぎ、卵、パン粉と小麦粉。

ハンバーグか。


頼まれてはいないけれど、見てしまったのに無視はできない。


お母さんは朝から夕方までパートで働いているし、妹の送り迎えもあって、いつも疲れた顔をしている。

なるべく私が手伝わないといけない。