しばらくして、ようやく自宅付近と思しき場所まで来れた萌。息を切らしながら辺りを見渡すが、自宅は見つからない。萌は徐々に焦り始めていた。額に変な汗が滲んでくる。そこに一人のおばあさんが通りかかった。すがりつく思いで、萌はそのおばあさんに走り寄った。可愛らしい、実に優しそうなおばあさんだ。手には植物で編み込まれた手提げ袋を持っている。中には夕ご飯で使うであろう食材と、毛糸だまが入っている。
「す、すみません」
「おや?どうしたんだい?そんな血相変えて」
「ここらへんに村上って人の家があるはずなんですけど、知りませんか?高校生ぐらいの女の子と、お父さんとお母さんが住んでいるはずなんですが。女の子の名前は萌っていいます。住所は―」
萌はおばあさんに住所を教え、願うような気持ちでおばあさんの返答を待った。おばあさんは少しばかり考え込んだ後、口を開いた。
「その住所ならあそこの家だね。でも、村上って苗字じゃなかったはずだよ。それに、わたしゃ生まれてこの方この町を離れたことはないけど、村上萌なんて名前の女の子がここらへんに住んでるなんて話は今も昔も聞いたことないねぇ。萌なんて"変わった"名前の女の子がいたら忘れないはずだよ」
「そう、ですか・・・」
「力になれなくてごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
おばあさんの答えは萌が期待していたものとは180度違っていた。落胆の色を隠せない。言葉とは裏腹に、萌の顔は全然大丈夫そうではなかった。おばあさんは萌の服装を下から上まで舐め回すように見てから、不思議そうな顔で問いかけた。
「それにしてもあんた、なんだか変わった恰好してるねぇ」
「小学校にいた男の子にも言われたんですけど、私の恰好ってそんなに変わってますか?」
「たしかに変わってるねぇ。最初は東京オリンピックを"見に来た"異人さんかと思ったくらいさ」
スカートが短すぎるところはあるが、服装自体は至って普通の学校の制服だ。変わってる要素なんて何一つあるはずがなかった。そんなことを言っていたら全国の女子高生は全員変わった恰好をしながら学校へ通っている、ということになる。小学校といい、周りの反応といい、このおばあさんといい、萌は徐々にこの世界自体に違和感を感じ始めていた。そして、まるで"もうすぐ東京オリンピックが始まる"みたいな言い方をするおばあさんの言葉にも引っかかりを感じていた。萌はあくまでも冷静に、おばあさんに問いかけた。
「す、すみません」
「おや?どうしたんだい?そんな血相変えて」
「ここらへんに村上って人の家があるはずなんですけど、知りませんか?高校生ぐらいの女の子と、お父さんとお母さんが住んでいるはずなんですが。女の子の名前は萌っていいます。住所は―」
萌はおばあさんに住所を教え、願うような気持ちでおばあさんの返答を待った。おばあさんは少しばかり考え込んだ後、口を開いた。
「その住所ならあそこの家だね。でも、村上って苗字じゃなかったはずだよ。それに、わたしゃ生まれてこの方この町を離れたことはないけど、村上萌なんて名前の女の子がここらへんに住んでるなんて話は今も昔も聞いたことないねぇ。萌なんて"変わった"名前の女の子がいたら忘れないはずだよ」
「そう、ですか・・・」
「力になれなくてごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
おばあさんの答えは萌が期待していたものとは180度違っていた。落胆の色を隠せない。言葉とは裏腹に、萌の顔は全然大丈夫そうではなかった。おばあさんは萌の服装を下から上まで舐め回すように見てから、不思議そうな顔で問いかけた。
「それにしてもあんた、なんだか変わった恰好してるねぇ」
「小学校にいた男の子にも言われたんですけど、私の恰好ってそんなに変わってますか?」
「たしかに変わってるねぇ。最初は東京オリンピックを"見に来た"異人さんかと思ったくらいさ」
スカートが短すぎるところはあるが、服装自体は至って普通の学校の制服だ。変わってる要素なんて何一つあるはずがなかった。そんなことを言っていたら全国の女子高生は全員変わった恰好をしながら学校へ通っている、ということになる。小学校といい、周りの反応といい、このおばあさんといい、萌は徐々にこの世界自体に違和感を感じ始めていた。そして、まるで"もうすぐ東京オリンピックが始まる"みたいな言い方をするおばあさんの言葉にも引っかかりを感じていた。萌はあくまでも冷静に、おばあさんに問いかけた。



