「じゃあね、萌。また明日」
「うん、またね。里香、また貴志君のこと聞かせてね」
「はいはい」
いつものように萌は2人と別れ、1人別の道を歩き出した。いつもと何ら変わりのない帰り道。見慣れた道だ。自宅まではここから歩いて5分といったところか。
―もうすぐ自宅でゆっくりできる。家族と会える
そう思うと、萌の口から自然と溜め息が漏れた。深い溜め息だ。
もう少しで自宅が見えてくる、と思った時だった。ふと、見慣れない小道を萌は視界の端で捉えた。人1人がようやく通れるほど狭い道だ。道の両脇は草木で覆われている。
「こんなところにこんな道あったかな」
怪訝に思いながら、萌はその道を少し覗きこんでみた。小道の先は漆黒の闇に包まれ、見えない。異世界への入り口のような、そんな雰囲気すら漂っている。明らかにここだけ異質で、不気味だ。
「この先に何があるんだろう」
独り言のように呟くと、萌は何かに吸い寄せられるかのように、目の前の小道を好奇心のままに歩みだした。進めば進むほど、辺りはより一層深い闇へと包まれていった。次第に萌は自分が本当に進んでいるのか分からなくなるような、そんな不思議な感覚に襲われていった。萌の中で恐怖心と不安感が徐々に膨らんでいく―。
「な、何!?なんなの!?ここ・・・や、やだ!怖い!助けて!!美咲、里香―」
引き返そうとした瞬間、急に目の前が真っ白い光に包まれ、萌は徐々に意識が遠のくのを感じた。
―このまま私、死んじゃうのかな・・・もっと色んなことしたかったな。里香、貴志君と上手くいってくれるといいな
薄れゆく意識の中で、萌は不思議と冷静にそんなことを思っていた。