あたしは、願うように空を見上げた。

 銀色の細い雨が真っ直ぐに降りそそぎ、屋根や、土や、木々を包み込む。

 しっとりと立ち込める水の匂いを嗅ぎながら、何度も何度も記憶をリピートさせた。

 走り去る凱斗の、一瞬の横顔。
 彼の踵が蹴り上げた水飛沫の透明。

 それはあたしの心を、世界を包む雨音よりも強く鳴らして激しく揺さぶった。

 心臓がドクドクするたび、あたしの胸は期待に弾んで、膨らんでいく。

 喜びや、願いや、夢や、祈りが、まるで透き通った泉のようにどんどん溢れてくる。


 世界は希望に満ちている。
 美しいもので一杯で、キラキラした優しいもので満ちている。

 だからどうか、どうかお願い。

 その中でも一番美しいものが……

 あたしの好きな凱斗のたったひとつの心が……

 どうかあたしを想ってくれていますように……。