その日の昼休み、あたしはエレナにマラソン参加に至った経緯を話していた。


と言っても本当の事なんて言えないから、陸上部の先生に勧められたのだと嘘を言った。


「藍那にそんな才能があったなんて、あたし知らなかったなぁ」


エレナは少し寂しそうな顔をしてそう言った。


「ごめん。走る事が趣味だなんて、なんか恥ずかしくて」


「恥ずかしがる必要なんてないのに!」


「えへへ。ありがとう」


あたしは頭をかく。


足の速さが話題になってからいろんな人から褒められているので、ずっとくすぐったさを感じている。


「でもさ、才能を伸ばすのって大変でしょう?」


エレナにそう聞かれて、一瞬ドキッとする。


「そ、そうだね。今まではあまり人に知られたくなかったから、家でできる範囲のトレーニングしかしてこなかったからね」


それでもどうにか嘘をついた。


「だよね。続けてこなきゃあんなには走れないもんね!」


エレナの裏表のない言葉に胸がズキズキと痛んで、これ以上走る事に関する話題はしたくなかった。