《mother》の中にさっきの女性たちの姿はすでになかった。


どこかへ連れて行かれたのだろう。


観光客や、一般の人たちでにぎわっている。


「こっちだ」


黒スーツの男がそう言い、エレベーターへと向かう。


それは従業員専用と書かれていて、パスワードを入力しなければ動かないエレベーターだ。


黒スーツの男が素早くパスワードを入力すると、そのドアは簡単にひらいた。


医療現場で使われているような広いエレベーターの中は全面鏡になっていて、自分の姿4方に映っていた。


それは最後の鏡の迷路の部屋を思い出させて、一瞬目の前で血が飛び散ったように見えた。


エレベーターはほとんど音もたてず動き、そしてどこかの階に到着した。


スッと扉が開かれた……その瞬間、歓声が沸き起こっていた。


どこかで見た事のある風景の中にあたしが立っている。


丸い形をした格闘場……コロッセオだ……。


その特等席とも言える観客席にエレベーターは通じていたのだ。


「どうだ。いい眺めだろう」


エレベーターの中から出た黒スーツの男が、振り返ってそう言う。


あたしはエレベーターから一歩外へ足を踏み出した。