夏希は翔子の手を強く握り、海の方へ歩き出した。




自分たち以外、誰もいない砂浜で、波の音が静かに聞こえてくる。




翔子は夏希の手を振りほどこうと、身体中に力を込めたが、夏希の力は驚くほど強く、夏希の手は振りほどけなかった。




〈 止めて、夏希!

お願いだから手を離して!

私は海になんて入りたくない。

もしも私が、海に入ってしまったならば…… 〉




翔子は夏希にグイグイと手を引かれ、波打ち際まで連れてこられた。




打ち寄せる波が、砂浜に弾けて消えたとき、翔子の足元は冷たい海水でびっしょりと濡れてしまった。




「翔子、早く海に入ろう。

今年の海も楽しいよ」




夏希はそう言って、不気味な笑みを浮かべると、翔子の手をさらに強く引っ張った。




夏希はその強い力に、抵抗しきれず、倒れ込み、大きな波を頭から被っていた。