「お母さん、私、今とっても幸せなの。

だって私には、素敵な夫の武士さんがいて、かわいらしい娘の百合子がいて……」


そう言った私の頭の中に、母と過ごした貧しく、恵まれない日々が思い浮かんだ。


「ちょっと古い家だけど、私たちの家もあるの。

二階建てで、小さな庭があって……」


私は母と話していると、母に伝えたい言葉が、次から次へと思い浮かんだ。


「お母さん、私、世の中ってとっても不公平で、生まれながらに幸せな人と不幸せな人がいて、私は、幸せになれない人なんだと思っていたの。

寺田小夜子は、童話の世界の貧しい灰かぶりの少女。

魔法にでもかからない限り、決して幸せにはなれないって」


暗い部屋が再び明るく光り、受話器を握っている私の耳に雷鳴が轟く音が入り込んだ。


「でもお母さん、本当に正しかったのは、私ではなくてやっぱりお母さんだったわ。

お母さんはいつも私に言っていたから、願いは叶うって。

私たちだって、幸せになれるって……」