刑場迄の間、その死刑囚はにこやかに談笑していた。
執行部屋に入る前に、僧侶から何か話し掛けられていたが、その時ですら笑みを絶やしていなかった。
栗田は、他の刑務官と共に、執行部屋の外側にある部屋へ通された。
灰色一色の部屋。
少しばかりナフタリンのような匂いを感じた。
壁に向かう。
そこには赤いボタンが在った。
そのボタンは、全部で五つ有り、それぞれに刑務官が配置された。
栗田は一番右端。
そっと隣を見る。
自分より若い刑務官だ。
心無しか顔が青ざめている。
きっと自分もあんな顔色をしているのだろう。
「用意!」
親指を赤いボタンに当てる。
五つあるボタンのうち、どれかが死への道先案内になる。
それは誰にも判らない。
自分では無いかも知れない。
だが、確実に五人のうちの誰かが……
部屋の左上にランプがある。
それが点き、ブザーが鳴ればボタンを押さなければならない。
用意の号令からかなりの時間が経った。
本当はそれ程の時間では無かったかも知れない。
緊張が限界迄に達しようとした瞬間、ランプが点滅し、部屋中にブザーが鳴り響いた。
十数分後、死刑囚の死亡が確認された。
立ち会った者全員が合掌した。
栗田達は別室へ行き、そこで清めの酒を飲んだ。
栗田はほんの一口だけ御神酒を含むと、茶碗を置いた。
見ると、全員が同じように一口しか飲んでいない。
保安課長室に戻り、無事執行された事を報告する。
解散を告げられ、待機室に戻った。
そこには、もう一人の執行に立ち会った刑務官達が居た。
「ご苦労さん。そっちは何事も無く済んだようだな」
「はい」
「当たりだったな。うちの方は大変だったよ。暴れるは、泣きじゃくるはで、満足に歩けやしなかった」
そう言ってその刑務官は足早に待機室を出て行った。
その日、栗田は真っ直ぐ官舎には帰らず、夜迄駅近くの食堂で酔っ払った。
執行部屋に入る前に、僧侶から何か話し掛けられていたが、その時ですら笑みを絶やしていなかった。
栗田は、他の刑務官と共に、執行部屋の外側にある部屋へ通された。
灰色一色の部屋。
少しばかりナフタリンのような匂いを感じた。
壁に向かう。
そこには赤いボタンが在った。
そのボタンは、全部で五つ有り、それぞれに刑務官が配置された。
栗田は一番右端。
そっと隣を見る。
自分より若い刑務官だ。
心無しか顔が青ざめている。
きっと自分もあんな顔色をしているのだろう。
「用意!」
親指を赤いボタンに当てる。
五つあるボタンのうち、どれかが死への道先案内になる。
それは誰にも判らない。
自分では無いかも知れない。
だが、確実に五人のうちの誰かが……
部屋の左上にランプがある。
それが点き、ブザーが鳴ればボタンを押さなければならない。
用意の号令からかなりの時間が経った。
本当はそれ程の時間では無かったかも知れない。
緊張が限界迄に達しようとした瞬間、ランプが点滅し、部屋中にブザーが鳴り響いた。
十数分後、死刑囚の死亡が確認された。
立ち会った者全員が合掌した。
栗田達は別室へ行き、そこで清めの酒を飲んだ。
栗田はほんの一口だけ御神酒を含むと、茶碗を置いた。
見ると、全員が同じように一口しか飲んでいない。
保安課長室に戻り、無事執行された事を報告する。
解散を告げられ、待機室に戻った。
そこには、もう一人の執行に立ち会った刑務官達が居た。
「ご苦労さん。そっちは何事も無く済んだようだな」
「はい」
「当たりだったな。うちの方は大変だったよ。暴れるは、泣きじゃくるはで、満足に歩けやしなかった」
そう言ってその刑務官は足早に待機室を出て行った。
その日、栗田は真っ直ぐ官舎には帰らず、夜迄駅近くの食堂で酔っ払った。



