一時は落ち着いていた私の精神状態も、数日しか持たなかった。

 それは、夕食の時だった。

 出された飯の中に、蒸し揚げられた芋虫のような物が入っていた。

 東京拘置所の飯は、一人前がアルミの弁当箱に入れられてある。

 麦三割、米七割の比率は他の施設と変わらないが、このような器を使っているのは、他には無い。一人前の弁当箱を想像して貰えれば判り易いかもしれない。

 此処ではその弁当箱毎にボイラーの蒸気で蒸し炊きをする。使われる米や麦は、かなり古いものだ。

 そらは仕方の無い事で、一人頭の一日における食事の予算が四、五百円程度なのだから。

 籾殻付の古い米を使う度に精米するのだが、虫が相当混じっているらしい。

 炊事係は、精米の度に虫を取り除く訳だが、除去し切れずに混入する事がある。

 決して珍しい事では無い。職員に頼めば、直ぐに別な物と交換してくれるが、やはり気持ちのいいものではない。

 普段なら、この程度の事で目くじらを立てる事も無かっただろう。が、この時の私は突然、狂ったように喚き出したのである。

「お、俺を殺す気か!」

 舎房の壁にアルミの弁当箱を投げつけた。

 小机をひっくり返し、部屋中にカレーをぶちまける。

「どうした、何を騒いでいる!」

「俺に毒虫入りの飯を食わそうとしやがって!」

 畳に散らばったカレーの具を掴み、小さな視察孔から覗く刑務官に投げた。

 数分とせず、警備隊がどかどかとやって来て、私の身体を舎房から引き摺り出した。

 そして、あの保護房へ連行された。