「木山さん、材料これでお終いなんで、時間迄ゆっくりやってくれますか?」

 昔は袋貼の仕事など腐る程あったのに、最近の不況は刑務所にも波及しているようだ。

 私は紙袋の材料を受け取りながらそんな事を思った。

 私の控訴審は、現行犯逮捕の住居侵入と窃盗での判決となり、懲役1年10月の実刑を言い渡された。

 未決通算が一年以上あったから、実際に務める刑期は残り半年ばかりだ。

 現在は、刑が確定し、刑務所への移送待ち。

 未決の舎房からアカ落ちする時、担当の栗田のオヤジがニコッとして

「頑張れよ」

 と言ってくれた。

 もう二度と来るなよと言いたかったのだろうが、正直言って私達のような前科者を、社会はそう簡単には受け入れてはくれない。

 今回は、冤罪で入って来る賠償金があるから、今迄よりは出所後が楽ではあるが、その金だって何時迄持つ事やら……

 それにしても、真犯人が警視副総監の息子だったとは……

 私が犯人にされたのは、単なる捜査ミスではなく、最初から仕組まれたものだったと知らされた時には、心底驚いた。

 丁度タイミング良く、罪を被せても問題が無い奴が捕まったからという事らしい。

 今だから冷静に振り返れるが、確かに一切身寄りが無く、前科が四つも五つもある奴ならお誂え向きと思うだろう。

 世間から抹殺されても誰も気付きはしない。

 今でもたまにあの日見た光景を思い出す。

 でも、それが現実に見たものなのか、そうではないのか、このところ区別が付けずらくなって来た。

 さて、今度は何処の刑務所に送られるのだろうか。

 そして、娑婆に出るのは……

 丁度桜が満開になる頃だ。








おわり