弁護側は、急遽木山の公判を延期した。

 理由は、新たな証拠提出に時間が掛かる為としたが、当初、裁判所側からの返事は延期は認めないという内容だった。

 それを何とか四週間の期限を付ける事で、検察側の同意も得られた。

 DNA鑑定の結果は、当然、検察側にも伝わっている。

 延期同意は、検察側の余裕の表れである事は明白だ。

 次の公判では、間違い無く鑑定結果を踏まえて、木山本人を攻めてくる筈だ。

 木山を無罪に導く筈であったDNA鑑定が、その逆を生んでしまった事に、森山は大きく落ち込んでいた。

 四週間の公判延期手続きをしたのは良いが、彼はこの四週間で何をどうすれば良いのか判らなくなっていた。

 浅野は、こうなると森山には荷が重いと判断し、いよいよ自分が直接出るか、或は、思い切ってこの裁判から手を引くかという判断を迫られていた。

 その判断を下す前にしなければならない事は、木山に鑑定結果を伝え、本人から真相を聞く事であった。

 このままでは、自分の事務所が大きなイメージダウンに見舞われる。

 裁判の途中で手を引く事自体、弁護士事務所としては良いイメージを持たれない。

 特に刑事訴訟ならば。

 それを最小限のものに出来るかどうかは、木山からどれだけ真実を聞き出せるかに掛かっている。

 木山の弁護を続けて行くならば、尚更、真実を知る必要がある。

 その為に、高橋弁護士と野間口弁護士の二人を面会に行かせてはいるが、自分自身も直接話しを聞かなければならないと思っていた。