気まずい思いを引きずったまま、森山はトイレに入り、何度も顔を洗った。ついでに頭も濡らす。

 学生時代から、何かトラブルがあったり、むしゃくしゃする事が起きると、こうして顔や頭を洗うのが癖になった。

 それも思い切りやる。水が跳ねようが、服が濡れようがお構いなし。

 洗い終わると、

「ヨッシャアー!」

 と一声張り上げる。

 これで、もやもやしたものをさっぱりさせる。

 何時もならそうなる筈だったが、この日は違った。

 鏡に映った自分の姿に、森山は益々気が滅入ってしまった。

 そういえば正月から休んでないな……

 その正月休みも、木山の件を四六時中調べていた。

 この数ヶ月の平均睡眠時間を医者に言ったら、多分自殺行為だと言われる。

 明らかに疲れ切った顔。

 脂気の無い肌。

 目は窪み、隈が表れている。

 こんな自分を初めて見た。

 俺って、こんな顔していたか?

 最近、まともに鏡も見ていなかった事に、我ながら驚いた。

 こんな顔した弁護士じゃ、あれだけ自信満々な検事に勝てないよなぁ……

 びしょ濡れになったまま立ち尽くしているところへ、人が入って来た。

 森山の姿を見て少し驚いた様子で、あたふたと用を足した。

 我に返った森山は、薄いハンカチで顔と頭を拭き、法廷に向かった。