本間はまさかと思いながら佐藤に答えた。

「杉並の署長?」

「正解」

「しかし先輩、随分とその時の事詳しいっすよね」

「そりゃそうよ、寒い中、現場駆けずり回ってたんだ」

 本間は佐藤の話しを聞いて、朧げながらも何かが見えそうな気がして来た。

 しかし、まだはっきりとしない。霞みがかったモヤモヤが、本間の脳を尚更混乱させていた。

「本間チャン、サトちゃんの話しに後日談があるんだ」

 阿久根が身を乗り出し、それ迄以上に声を潜めて話し出した。

「六年位前になるかなあ……神奈川県警で不祥事が続いたのを覚えてるよな」

「はい。自分が拝命して間もない頃でしたから、はっきりと覚えてます」

「実はな、その時の県警本部の幹部は、松本の時の連中だったんだ」

「え!?あの時はかなりの人間が処分されてましたよね?」

「表向きはな。一年後には何も無かったかのようにキャリアの道をスイスイ……」

「本間、ここから本題だぞ。
 松本の時も、神奈川の時も身内のしくじりを揉み消して来た連中が、今、俺達の前に立ち塞がろうとしてんだ。
 恐らく、杉並の連中もてめえらのヘタ打ちに薄々気付いたんだと思う。かと言って一旦自供迄追い込んどいて、はい違いました、てな訳にはいかねえ。となると、どうする?」

「揉み消し?」

「どう揉み消す?」

「……監視したり、俺の捜査資料やケータイを調べたのは、証拠隠滅の為ですか?」

「そこ迄するかどうかは判らんが、あっても不思議じゃねえぞ」

「何でそんな事までして……」

「それはよ、キャリア様だからさ。念の為、木山を自供させた担当がキャリアかどうか調べてみな。間違い無く紐は、繋がってると思うぜ……」

 佐藤は、空になったチューハイのグラスを持ったまま、喋り過ぎたとでも言うのか、そのまま押し黙ってしまった。

 阿久根はしきりに煙草を吸っている。

 本間は、自らの職業に初めて疑念を持った。