木山事件。

 このところ、週刊誌等のマスコミが木山の裁判をこう称して扱い始めていた。

 実は、浅野が様々なツテを使ってマスコミにこの事件の事を流していたのだ。

 森山がこの背景を知るのは、暫く先の事になるのだが。

 警察調書に於ける矛盾点は、それこそ重箱の隅を突けばキリが無い程出て来る。

 そういった瑣末的な事以上に変だと感じたのは、簡潔過ぎる裁判であったという点だ。

 素人目に見ても、おかしいと感じる。

 まるで、木山悟が犯人じゃなければならないとでもあるかのように。

 犯人は木山じゃなければ駄目?

 想像して行くうちに、森山は背筋が寒くなって来た。

 何度かこの想像を頭から追い払おうとするのだが、そうすればそうする程、不気味な形となって迫って来た。

 犯人の捏造……

 だが、これを根拠付ける確証は何一つとして無い。

 あくまでも、森山個人の勘でしかない。だが、調べれば調べて行く程、その杜撰さが意図的に思えて来るのだ。

 警察だけでは無く、検察、裁判官、更には弁護人迄が、出来レースのように裁判を進めた。

 本来司法には、

 疑わしきは被告の利益

 というのが大原則としてある。

 それが一審では、まるで正反対な結果になっている。

 裁く側だけでなく、守る側もぐるになっていたとしたら……

 全ての権力との戦い……

 自分の想像がもし当たっていれば、これはどう足掻いても勝てる見込みは無い。

 だが、勝たねばならない。勝つ為には、木山が犯人では無いという弁論を控訴審で展開して行くしか無い。

 一つの方法として、具体的な真犯人像を木山と対比させる事が、無実を勝ち取る一番の近道であろう。

 出来るならば、真犯人が現れてくれる事を願う。だがそれは、余程の偶然でもなければ有り得ないであろう。

 森山は、自分がとんでもないものを相手にし始めているような気になって来た。