怨恨による犯行……

 事件当初、警察側も当然その線でも捜査した。

 被害者の交遊関係から、何人もの事情聴取が行われた。

 特に、捜査本部が置かれた練馬署では、強盗を装った怨恨による犯行に捜査重点を置いていた節がある。

 森山は、犯行状況から先に割り出し、そこから物盗りなのか怨恨なのかを判断する事にした。

 ベランダの窓は確かに壊されていた。だが、これが捜査の目を撹乱させる為の偽装だとしたら?

 所轄署が最初に目を付けた、面識がある者の犯行……

 この線で考えた方が、全ての状況が自然に繋がる。

 犯人が被害者宅を訪れた際、知り合いだから簡単に中に招き入れた……

 玄関から台所を通る……

 そこで凶器となった包丁を手にし、奥の部屋へ……

 犯行後は強盗を装う……

 或は、犯人は合鍵を持っていて、既に侵入し、部屋の中で被害者が帰宅するのを待っていた……

 被害者の部屋には、身を隠すのに最適なウォークインクローゼットがあった。
そこなら身を隠せる。

 更に森山はもう一歩踏み込んだ推測をした。

 単なる知人、友人ではなく、一方的に犯人が被害者を知っていた……

 たまたま、被害者を知った犯人が、一方的に恋心を抱いたり、それに近い感情になった。

 もっと彼女を知りたい……

 所謂、ストーカー行為から発展した犯行……

 被害者に加えられた暴行の跡は筆舌に尽くし難いものがある。

 包丁の刺し傷は複数に及ぶ。

 木山の性格で、果たしてそうまでするだろうか?

 否。

 導き出された答えはここに辿り着く。