こんな時、自分には友達もいないんだと実感させられる。
昔から自分を出すのが下手だったから、いつの間にか周りはグループになってしまっていて、特別仲のいい友人が出来なかった。

そのまま社会人になったから、学生の時と違って出会う人数も限られるし、相手は先輩とか目上の人とか多いからプライベートで会うとかそんな間柄になんかなれっこない。

それでも、こんな時、誰かに側にいて欲しいと思うくらいなら、手を上げてでもラストまで仕事をしていた方がよかったのかもしれない。

エレベーターを待ちながら延々とそんなしょうもないことを考えていると、上階から降りてきたエレベーターが音を上げて扉を開いた。
顔を伏せるようにしていた私は、そのまま乗り込もうと足を踏み出す。

「お疲れ」

その声に、勢いよく頭を上げる。
ボタンに手を掛けて私を見てるのは、斎藤さんだった。

「何ボーッとしてんの? 早く乗って」
「あっ、す、すみません!」

飛び乗るように斎藤さんと同じ空間に踏み込むと、すぐに扉が閉まっていく。
彼の斜め後ろに立った私は、不意打ちの対面に胸を騒がせた。

「もう帰るんだ?」
「あ、はい……月に三回くらいあるんです。早番……」

斎藤さんと会うのはあの夜以来だから、否が応でも緊張しちゃう。

本当はまたお礼を言いたいくらい感謝してるけど、またあの日を思い出すのも微妙な気がして言葉を飲み込んで、通常の会話で返す。

その時、静かなエレベーター内にスマホのバイブ音が響いた。
規則的に鳴る振動はなかなかおさまらなくて、そのまま無視し続けるのも不自然極まりないと思った私はバッグからスマホを取り出す。

ディスプレイを見て、胃がキリキリと痛んだ。

この状況で電話に出ないなんて、斎藤さんのことだ。絶対おかしいって勘づくに違いない。
それでも、それをごまかすためのカムフラージュとかで電話に応答する気にもなれなかった。

エレベーターが3階を過ぎようとした時に、ようやく着信が切れる。
ホッとしながらも、斜め前の斎藤さんが気になって顔を上げることができなかった。

俯いたまま、スマホをそっとカバンに入れようとした時に言われる。