私が喋らなくても話題は進むし、もしかしたらいなくても全く問題ないかもしれない。

時々感じる、自分が浮いた存在っぽいという感覚は、深いところにしまってある〝さみしさ〟が出てきそうになる。
私はいつも、それを必死に抑え込んで、平気な顔を保つんだと思う。

……なんて、そんな難しいこと頭で考えたことなんかほとんどないけど。

「ごちそうさま」

ぽつりと漏らして食器を片付ける。
二階の部屋に戻って、ベッドにころんと横になった。

枕元に置いてあったスマホを何気なく見てみるけれど、なにも変わらない画面だけが浮き出るだけだ。

広海くんからのメールもない。
彼氏だし、広海くんの性格上、私の予定がわかるようにと、シフト表は渡してある。

だけど、私が休日だからって100パーセント一緒にいるわけではなかった。
私は広海くんの予定が空いた時に呼ばれて、会いに行く。
いつの間にかそんなスタンスが定着していたから、やっぱりこれも深く考えないようにして受け入れた。

……だって、必要になったらちゃんと呼んでくれるし。

心の中でそう言い聞かせるのは何回目か、もうわからない。
いつもなら、一度胸の中でそう唱えると気持ちは落ち着くはずなんだけど、今日はなぜだかまだざわついている。

もしかしたら、久々にお母さんとお姉ちゃんと一緒だったからかな?

落ち着かない心をどうにかしたくて、同じ言葉を数回頭の中で繰り返す。
目を閉じて、まるで自身に催眠でも掛けるように。

けれど、どうにも集中しきれなくて、とうとう固く瞑っていた目を開けてしまった。

鳴らないスマホ。予定のない休日。
突然、身体全体が真っ暗な闇に飲み込まれるような感覚に、悲しい気持ちが胸にこみ上げる。

無意識に助けを求めるかのように、手にあるスマホを強く握ると発信履歴の画面に切り替わった。

一番上に見えた、秘密の名前。

【カエル急便】

その文字が目に飛び込んだ瞬間に、視界が明るくなった気がした。
ホッと息を吐いて、ベッドから起き上がる。

ひとりきりの部屋に居たくなくなった私は、簡単に支度をしてすぐに家を飛び出した。