互いに想い合っていたはずのふたり。



長い時間をかけて、少しずつ。

少しずつ生じてしまったずれは、こんなにも苦しい。



動いてしまった心。

大人に近づくことで変わってしまったことを、まだ子どもの私が否定なんてできない。



「告白はしたの?」



岡村くんの問いに、志乃さんは首をゆっくりと横に振った。



「わたしは生徒で、彼は先生で。
たとえ家庭教師だったとしても、その壁は越えられなかった」

「でも、」

「言えるわけがなかったのよ。
わたしは子どもで、だけどもう……違うわ」



瞳を閉じて、息を吐いて。

そっと開いたら、強い眼差し。



「好きな人に迷惑をかけるわたしでありたくなかった」



告げることも、告げないことも、選ぶのは本人で。



出した結論は同じ。

……同じはずだった。



でも、彼女は変わらない選択をしたはずの私とは違う。

志乃さんはずっと、大人だった。