俺は息を飲んだ。
これ、このじーさんのことだ。
じゃあなんだ。
ボケたじーさんはここでずっと隣に座る那美子に気づかずに語り倒してたってことかよ。
「……大変じゃあ」
背後に忍び寄ったじーさんが、ポツリとこぼす。
その視線は鏡に釘付けになっている。
「宮子が泣いておる。……早く行ってやらなきゃ」
「え?」
じーさんは慌てて出ていこうとする。扉を開けた瞬間、戻ってきたヨミとぶつかった。
「これは、お客様でしたか。失礼しました」
「ヨミ! じーさんを止めろ。そして、直ぐこの手紙を出せ!」
「はぁ?」
「話しなら俺が聞いた。頼むよ。今直ぐこの手紙出してくれ」
「なんなんですか、一体」
ヨミは戸惑ったまま、手紙の中身を改める。
「身元を確認する前には出せませんよ」
「大丈夫だよ。俺の予想が正しければ、彼女は」
ヨミは俺の顔をじっと見つめた。しかし焦点は俺には合っていない。
少し手前の当たりを見つめながら、何かを読み取ったかのように唇を緩ませる。
「……なるほど。分かりました。この内容なら……風ですね」
ヨミはカウンターの奥に戻り手紙にハンコを押す。
一瞬、シュワシュワと小さな煙が出てきて、空気に溶けた。
と同時に、鏡から見える世界にも変化が起こり始めた。



