降り注ぐのは、君への手紙


波紋を描いた鏡はやがて先程の続きの映像を映し始めた。

銀杏の木が並ぶ公園。ベンチに座る成美とその友達の那美子だったか。
二人の影が長く銀杏の木に向かって伸びていた。


「……しばらく来ないなぁって思ってたら、あの人、死んじゃったんだって」


那美子は視線を落としたまま、ポツリと呟く。
文庫本の上に載せられた手は少し震えていた。


「あのおじいさん?」

「うん。そう。私が恋したおじいさん」


は?
ちょっとまてよ。じーさんに恋したって言わなかったかこの女。

親父に恋する成美でさえ、オイオイねぇよって思ってたのに、上手がいるのかよ。類友かよ。


「……おかしいよね、相手はボケてたのに。
最初はね、変な人が来たなって思っただけだったの。
帰ろうかとも思ったけど、このベンチはもう何年も私が陣取ってきた場所だもの。譲ってやるのは悔しくて」

「那美子さんらしいわ」

「おじいさんは成美が今座っているところに腰掛けて、ずっと独り言を言っていたわ。聞いている内に、亡くなった奥さんとの思い出だって気づいたの。それからは時々相槌を打って聞いた」

「那美子さん」

「あんなふうに好きな人の名前を呼べるなんて。なんて素敵なんだろうって思ってた」


那美子の声が潤んで、文庫本の表紙にポツリと水滴が落ちる。


「……もう一度聞きたい」

「……那美子さん」


成美の手が、那美子の背中をさする。
気の強そうな那美子が、成美に抱きついて泣き崩れる。


「私の名前じゃなくてもいいの。もう一度聞きたい。……宮子って」