男が指し示したのは、部屋の突き当たりにある楕円形の壁かけ鏡だ。
しかし、近づいてみてもそれは俺を映さない。
指でつつくと波紋が広がり、雲の合間から街がみえるという空からの俯瞰の映像が見えた。
いや、映像じゃないのか?
その鏡にうつる景色はやがて俺の知る町並みを移し始めた。
黒い雲が広がり、一滴二滴と地面にシミが出来る。それはあっという間に広がって、屋根や窓にたたきつけるように降りだした。
おいおい、随分激しい雨だな。
「みゃー」
「雨が降ってきちゃったね」
聞き覚えのある声が、耳をくすぐる。
俺の家の向かい、二階の窓。窓越しに見える成美が、髪を下ろしている。
マジ? 眼鏡もかけてねぇけど。
俺は信じられずに目を瞬かせた。
そして、窓をガリガリする猫を抱きしめる。
あれ、あの猫、俺が助けてやった猫に似てるかも?
「みゃーみゃー」
「お外に出たいの? 雨が降っているのに。変な子ね」
成美は猫の背を優しく撫でる。
とても大人びたその表情は、今まで見てきたどの成美とも違った。
「私の気持ちみたいね、いつまでも雨。……もう、桜の季節も終わったっていうのにね」
あれ?
今はいつだよ。
卒業式の日は桜なんて咲いてなかったぞ。



