降り注ぐのは、君への手紙


なのに忘れられないのは、向かいの家だからだ。

たまに出くわせば、相変わらずのひっつめおさげに黒縁メガネの冴えない女を装っている。

彼女も俺のことは存在すら抹消したいのか、怯えたように目をそらして隣をすり抜けていく。

嫌われてる。
そんなの知ってるよ。

でもお前、いつまでそんなお下げ髪でいるつもりだよ。

親父はなんだかんだ言っておふくろと仲がいいんだよ。
お前が入り込む隙間なんかねーの。

だいたい、あんなおっさんに何年片想いする気なんだよ。
いい加減諦めろバーカ。

心の中で毒づきながらも、彼女には何も言えなかった。


成美なんかもう知らん、そう思いながら、これでもかと彼女を意識し続けた三年間。
俺は無力で、情けなくて。そこから目をそらしたくてちゃらんぽらんになるしかなかった。




 そんなある日、彼女が親父の出身大学に推薦入試で合格したと聞いた。


「うちの高校からは初めてだ。さすがは成美ちゃんだな」


顔をほころばせながら語る親父を見て、黒い靄が心の中で広がる。

また親父の後を追いかけるのか。
いったいいつまで。

いつになったら、成美の目は覚めるんだ。

黒い靄は心の中で固まって、そこに居座りながら熱を発しているようだった。
暑くて、イライラして、俺の中で何かが弾ける。


その日、俺は家の前で成美の帰りを待っていた。

彼女は水曜日以外は帰りが早い。
塾通いも週二回と少なめで、この日は何もなくまっすぐ帰ってくる日だった。

家の前で立っている俺に気づいた成美は、ペコリと頭を下げ、逃げるように家に入ろうとする。


「合格おめでとう」


俺がぼそっと告げると、驚いたように見返してきた。


「あ、ありがとう」

「成美は、教師になるのか?」

「うん。なれたら。……おじさまみたいな先生になりたいの」


近所の女の子に心酔されるような教師になりたいのかよ。

心の中で嫌味は止まらない。
成美の中から親父を引きずり出したくて仕方なかった。